めかかうな大人のおとぎ話

時代背景30年ほど前の少々大人のアクションラブコメディ小説です。

暗殺者-メシア-22 最終話

22 「あれから2年か…。月日の流れは早いな…。望も もう3年生、私も年取る筈よね…。」落ち着きだけは、年令に伴なわない夢である。夢は並木通りのスーパーを目指して歩いていた。空を仰ぐと、真っ青な空に大きな固まりの雲が、呑気そうに顔を突き出している。…

暗殺者-メシア-21

21 工場地帯の出口に着いた頃には、もうすっかり辺りは朝に包まれていた。数少ない木の上でスズメの声も聞こえる。暗さに慣れた目に太陽が眩しい。「ここまで来れば車も通る。しばらく歩けばタクシーだって捕まるだろ。後は、お前ら二人で行け。」吉良が妙に…

暗殺者 − メシア – 20

20 早川は真正面から、向ってくる男に怯えながら、夢にナイフを突きつけていた。 「く、く、く、来るなっ!!」じりじり後ろへ下がって行く。吉良は脇腹を庇い、足を引き摺りながらも歩みを進めて行った。早川を見据えたまま、銃に弾を込める。そこへ、ようや…

暗殺者 − メシア – 19

19 夢の言葉を聞いて顔を輝かせたのは、もちろん早川だった。「そうかぁ〜決心したかぁ! そりゃそうだな。元々そうなることに決ってたんだから。僕と君との結婚は昔から決ってたんだ。なるようになっただけだからな。まぁ良かった良かった。」すっかり浮か…

暗殺者 − メシア – 18

18 「君は僕と結婚するんだ。」早川が言う。 『してくれ』でも『して欲しい』でもなくて『するんだ』…?夢は、あ然とした。(何言ってんの? この人、頭おかしくなっちゃったんじゃないの? 今更…しかも こんな状況でプロポーズはないでしょ…。)しかし事は…

暗殺者 − メシア – 17

17 男達が吉良の両手をロープで縛り始める。しかし、これがまた手際が悪い。縛られる吉良の方が苛立つ程だ。「…ったく、こいつら。こんなこっちゃ朝んなっちまうぜ。」沖田はそれを眺めながら、ゆっくり吉良の方へ近づいて行った。途中、銃を拾って腰に挟み…

暗殺者 − メシア – 16

16 もうほとんど車の見当らない巨大な地下駐車場で、早川は一人先を急いでいた。「…ったく! どいつもこいつも…‼︎」しきりに ぼやいている。靴音まで尖った音を立てて、駐車場に響いた。早川は夢を待つために、この時間まで会社に残っていたのだが、そこへ現…

暗殺者 − メシア – 15

15 居間のソファーで横たわる夢の額に、吉良が冷えたタオルを乗せた。そして深く息をつく。風呂釜の火はすぐに外から消したが、浴槽は既に変形して使いものにならなくなっていた。 危い所だった。本当に夢の体は蒸した後、焼かれる所だったのだ。まさに血も…

暗殺者 − メシア – 14

14 夢は夕食の片づけをしながら、頭の中を別世界に飛ばしていた。朝から、ずっとこの調子…。隙あらば吉良とのキスの余韻に浸ってしまう。「吉良さん…。」(…少なくとも私、嫌われてないよね…きっと。ううん、それどころか、もしかしたら吉良さんも私のこと……

暗殺者 − メシア – 13

13 静まり返る部屋。吉良はゆっくり振り向いて、夢を見た。慌てて布団で胸を隠そうとする夢だったが、腕が痛んで布団が上がらない。「痛ぁ…」「おい、大丈夫か…」吉良が、近づきかけて足を止める。そして、不機嫌そうに言った。「アホか!お前はっ!何の考え…

暗殺者 − メシア – 12

12 「おはようございまぁす。」次の朝、夢はいつも通り元気に吉良に声を掛けて来た。「ああ…」吉良の方が対応に困っている。続いて、食堂に集まった全員に夢は宣言した。「今日から私、全面的に家事復帰します! 本当に今まで皆さん、お世話になりました! …

暗殺者 − メシア – 11

11 吉良が下宿に戻って来たのは、もう日の落ちかかった頃だった。玄関の戸をガラガラ開くと、家の中が良い匂いでいっぱいになっている。吉良はピンときた。「夢だな…。…あいつ!」今日の夕食当番は、沖田と望の筈。そういう時、玄関に漂って来るのは たいて…

暗殺者 − メシア – 10

10 富士荘、玄関先である。望の声。「この人さらいっ!母ちゃんを放せっ‼︎」「夢さんのことなら、この僕にお任を。」望の声に続いたのは、沖田のセリフ。「私、自分で歩けますから…」夢も言った。3人の訴えの的になっているのは、もちろん吉良だった。「ごち…

暗殺者 − メシア – 9

9 庭用の帯が、土の地面にひらがなを描き出している。箒は独りでには動かない。描いているのは夢である。夢は庭の掃除をしているようなふりをしながら、さっきのことについて考えていた。どうして掃除するふりをしているのかと言うと、外にいる理由が欲しい…

暗殺者 − メシア – 8

8 その夜、吉良は部屋に広がる真っ暗な闇を見つめていた。月さえ見放した闇の夜。部屋の中は、まるで霧雨の中にでもいるかのような重い湿気に満ち満ちている。息苦しい空気の中で、吉良の眼だけが青く冴えていた。昼間のことを思い返す。猛スピードで走って…

暗殺者 − メシア – 7

7 下宿までの一本路をとぼとぼ歩く望。 見るからに元気のない足取りだった。泣きそうな顔で一生懸命考えごとをしている。望はさっき並木路で起った事故を 偶然 見ていた。母が跳ねられそうになったのは、もちろんショックだった。心臓が止まるかと思った。…

暗殺者 − メシア – 6

6 翌日は朝から雨。音もしない霧のような雨が淡々と降り続いていた。永久に止むことはない…そんな雨は、無表情に立ちつくす高層ビル達を黙って包み込んでいる。いかにも都会に似合う雨だった。灰色のシルエットとなって聳えるビル群から一段突き出た巨大な…

暗殺者 − メシア – 5

5 吉良が下宿にやって来てから、明日で一週間が経とうとしている。まだ下宿に吉良がいるということは、当然、夢が死んでいないということを意味していた。この一週間、決して吉良は遊んでいたわけではない。執拗に夢の行動を監視し、隙あらば仕事に取り掛か…

暗殺者 − メシア – 4

暗殺者 − メシア – 4 「ただいまぁーっ‼︎」望の声で、夢は我に返った。一体、何を考えていたのだろう。とうに忘れた筈の昔の話。恋だの愛だの今の自分には無関係なことではないか。しっかりしなければ、感傷に浸っている暇などない。自分は望の母親なのだか…

暗殺者 − メシア – 3

3 「えーっ? 夢さん、小学生の息子さんがいるんですかぁ? 全然、全くそんな風に見えませんねぇ! 若いし、綺麗だし…。子どもさんが羨ましいですよぉ。ほんっと!」沖田の歯の浮くセリフ攻撃。夢はたじろいだ。こんな所で ずっと まかないをしている夢にと…

暗殺者 − メシア – 2

2 家の中に入ると、そこは豪華の粋を極めた内装…である筈はなく、やはりボロッちかった。外から見るより更に古ぼけているかもしれない。玄関の真正面にある階段はギィギィ悲鳴を上げ、いつ踏み抜いてしまうかと不安になるし、壁にはひび割れ、あちこちにシミ…

暗殺者 − メシア – 1

暗殺者 − メシア – 1996年 夏 EPILOGUE 一枚の写真…。その少女は幸せの中で微笑んでいる。木漏れ陽を浴びながら、あどけなく、少しはにかむ笑顔。いかにも繊細で、今にも壊れてしまいそうな少女のように見える。しかし、その瞳は凛とした光を放ち、真っ直ぐ…